賃貸物件に住んでいる場合、何らかの理由で大家さんから立ち退き(物件の明け渡し)を要求される可能性があります。
私も過去に一度だけ、住んでいた賃貸マンションの立ち退きに遭ったことがあります。
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立ち退きを要求されるのには様々なケースがありますので、立ち退きは誰にでも起こりうることだと思います。
この記事では、どのような理由で立ち退きを要求される可能性があるのかをご紹介したいと思います。
正当事由とは
立ち退きを巡るトラブルは意外と多く、折り合いがつかない場合は裁判で争うことになります。
一般的に賃貸借契約は、契約期間の満了や借主(入居者)からの解約の申し入れ(退去の連絡)によって終了します。
大家さんだからといって、自分の勝手な都合で更新を拒否したり、契約を途中解除して入居者を立ち退かせることはできません。
貸主(大家さん)側から更新拒否や解約の申し入れをする場合に必要なのが「正当事由」です。
具体的には次のような事情を考慮して、正当事由の有無を判断されます。
- 貸主・借主が建物の使用を必要とする事情
- 賃貸借に関する従前の経過
- 建物の利用状況
- 建物の現況
- 財産上の給付(立退料)の有無
貸主・借主が建物の使用を必要とする事情
正当事由の中で最も重要視される項目で、建物を使用する必要性に関して、貸主の事情と借主の事情を比較します。
一般的には借主の居住の権利が強く、貸主に余程の差し迫った事情がない限りは正当事由としては弱い傾向があります。
借主が他に住居を所有していて、貸主にその建物に住まなければいけない差し迫った事情があれば、立退料の支払いなく貸主の正当事由が認められるケースもあります。
従前の経過
敷金・更新料等の授受の有無、賃料等の支払い状況等を確認します。
借主が何ヶ月も家賃滞納をしているなど、お互いの信頼関係を壊すほどの債務不履行を行った場合は、立退料の支払いなく貸主の正当事由が認められるケースが多いです。
家賃滞納による強制退去がこれに該当します。
建物の利用状況
借主が契約時と違う用途で建物を使用していないか、契約違反行為がないか等を確認します。
何度注意しても借主が契約違反行為をやめない場合は、お互いの信頼関係を壊すほどの債務不履行を行ったとして、立退料の支払いなく貸主の正当事由が認められるケースが多いです。
度重なる契約違反行為による強制退去がこれに該当します。
建物の現況
建物の物理的現況(老朽化の程度等)を確認します。
老朽化は自然なことであり、借主には一切の責任はないので、今にも崩れそうなほど危険な状態でない限り、老朽化だけの理由では正当事由としては弱い傾向があります。
一般的には立退料で正当事由を補完し、借主に立ち退いてもらうケースが多いです。
財産上の給付(立退料)の有無
上記の事情を総合的に見ても貸主の正当事由が不十分な場合は「立退料」を支払うことによって正当事由を補完します。
建物の老朽化
立ち退きを要求される一番多い事由が「建物の老朽化」だと思います。
私も建物の老朽化に伴う建て替えで立ち退きました。
老朽化が進むと高額な修繕費用がかかりますし、高額な費用を投じて補修したとしても物件の機能性や使用価値がそこまで向上する訳ではないので、建て替えたいと言う大家さんは非常に多いです。
老朽化は自然なことであり、借主にその責任はありません。
大家さんは老朽化を見越して計画的に対策をしていく必要があるため、単純に老朽化したからという理由で立退料を支払わずに立ち退かせることはまずできません。
この場合、貸主の正当事由が弱いので、立退料の支払いによって正当事由を補完するのが一般的です。
耐震強度不足
建物の老朽化の一種ですが「耐震強度不足」で取り壊し、または建て替えをするケースです。
建物が耐震基準を満たしていないことについては、借主に何ら責任はありません。
立ち退き要求する前にまず耐震補強工事が検討されると思いますが、耐震補強工事が高額なため建て替えたいという大家さんも多いです。
老朽化同様、正当事由としては弱い傾向がありましたが、裁判で耐震強度不足が正当事由として認められ、貸主が勝訴した判例もあります。
大家さん(親族)が住みたい
大家さん自身が「そこに住みたい」とか「親族をそこに住まわせたい」などの理由で立ち退きを要求されるケースです。
「現在住んでいる住居が老朽化した」「息子夫婦と同居したいが今の家では手狭」「二世帯住宅をそこに建てたい」などの理由で、賃貸している物件から借主(入居者)を立ち退かせてそこに居住しようというケースが多いようです。
「自分の所有する物件なのだから自由にできる」「立ち退いてもらって当然」と思っている大家さんも少なくないようです。
大家さんやご家族の事情も分かりますが、借主には何ら責任はなく、大家さんの都合でしかないですから、当然貸主側の正当事由は弱く、立退料の支払いによって正当事由を補完するのが一般的です。
長期転勤からの帰郷
長期の転勤や海外赴任などで、自宅を賃貸として貸していた貸主が戻ってくるケースです。
元々貸主の自宅ですし、転勤の間だけ賃貸していたのから戻る時には当然明け渡してもらえると思えますが、契約方法によって大きく変わってきます。
「普通借家契約」の場合、貸主が転勤で遠くへ行ったり、戻ってきたりすることは貸主の会社の都合であり、借主には何ら責任がないことです。
突然「転勤で自宅に戻ることになったので明け渡してください」と言われても、それは貸主の都合になり、正当事由はやや弱い傾向がありますので、立退料の支払いによって正当事由を補完するのが一般的です。
転勤の期間が初めから決まっていれば「定期借家契約」を締結しておく必要があります。
定期借家契約とは、契約期間が初めから定められており、契約期間が満了した時点で契約が終了し、契約の更新がない契約方法です。
「定期借家契約」を締結していれば、立退料の支払いなく確実に明け渡しを受けることができます。
定期借家契約を締結する場合には、下記の3つの要件を満たす必要があります。
- 契約書を公正証書等の書面で交わすこと
- 契約期間満了の際、更新なく契約が終了する旨を契約書へ記載すること
- 契約締結前に定期借家契約である旨を書面で交付・説明していること
高齢による廃業
大家さんが高齢になり、建物の維持管理ができなくなった等の理由で廃業するケースです。
私の立ち退きも大家さんがご高齢になり、廃業するので建物を売却されたことがきっかけでした。
大家さんが家業(賃貸業)を親族等に引き継げば良いのですが、中には跡取りがいない大家さんもいらっしゃいます。
廃業は大家さんの都合であり、借主には責任のないことなので、立退料の支払いによって正当事由を補完するのが一般的です。
物件の相続
大家さんがお亡くなりになった場合、物件等の財産は相続人となる親族に相続されますが、必ずしも誰かが事業を引き継ぐとは限りません。
「複数の相続人でお金を分けたい」「相続税が納められないので建物を売却したい」等の理由で立ち退きを要求されるケースもあります。
他人の家の相続は借主に何ら責任のないことですので、貸主の正当事由は弱く、立退料の支払いによって正当事由を補完するのが一般的です。
建物の売却
建物を売却することになったという理由で、立ち退きを要求されるケースです。
「高齢で建物の維持管理が難しくなってきたので売却したい」「相続税が納められないので建物を売却したい」等、売却に至る理由は様々あります。
売却は貸主の都合で借主にその責任はありませんので、立退料の支払いによって正当事由を補完するのが一般的です。
建物の所有者(貸主)が変わった
相続や売却で建物の所有者(貸主)が変わった場合、事業方針の違いから立ち退きを要求されるケースがあります。
私の場合も正にこのケースでした。
「大家さんが高齢で廃業 ⇒ 売却 ⇒ 新所有者から老朽化のため建て替えたい ⇒ 立ち退き」といった具合です。
このように、立ち退きを要求される理由がいくつも重なるケースが多いですが、総合的に見ても貸主の自己都合が多く正当事由は不十分なので、私も立退料を受け取りました。
抵当権の行使による競売
所有者が変わるケースで注意が必要なのは、物件に設定されたいた「抵当権」が行使された場合です。
「抵当権」とは、大家さんが建物を担保にお金の借り入れをしており、その借入金が支払えなくなると債権者(銀行等)が競売にかけることができる権利です。
競売で落札した人、または法人が新しい所有者となりますが、競売で所有者が変更になった場合、元の貸主に預けた敷金等は引き継がれません。
また、入居後に抵当権が設定された場合は、正当事由がなければ立ち退く必要はありませんが、入居前に設定された抵当権が行使され、競売によって所有者が代わった場合は立退料を請求することができません。
家賃滞納
借主が何ヶ月も家賃滞納をしていたり、頻繁に家賃滞納を繰り返す場合は、強制退去させられる場合があります。
契約書にも「家賃を〇ヶ月以上滞納した場合、契約を解除する」といった内容が記載されていると思います。
契約はお互いの信頼関係で成り立っているもので、何度も家賃滞納を繰り返すと信頼関係が壊れます。
この場合、貸主に正当事由があると認められ、立退料の請求はできません。
契約違反行為
「ペット不可の物件でペットを飼っている」「楽器の演奏をしている」「契約時と違う用途で使用している」「契約者と実際に住んでいる人が違う(転貸)」など、契約書で禁止されている行為を何度注意しても繰り返す場合、強制退去させられる場合があります。
これも信頼関係を壊す行為ですので、貸主に正当事由があると認められ、立退料の請求はできません。
近隣トラブル
何度も近隣から苦情を言われたり、複数の世帯から苦情を言われる場合、立ち退きを要求される場合があります。
本当に借主が迷惑行為を行っているのであれば自業自得ですが、住民トラブルは被害者が加害者として扱われる理不尽なケースも珍しくないので判断が難しいところです。
例えば「隣の部屋の騒音がひどく、一度直接注意しに行ったら逆恨みされ、それ以降嫌がらせや言いがかり的なクレームを何度も入れられ、管理会社や大家さんも自分が加害者だと思っている」などです。
このような理不尽なケースでは言われるまま立ち退く必要はないと思いますが、争う労力や精神的苦痛も大きいですし、近隣や大家さんに対する人間関係の悪化で住みにくさを感じ、退去してしまう人が多いです。